CES 2025 イベントレポート:AIエージェントが実体を手に入れたら…?変化する消費者の日常とマーケティングへの影響

CES 2025 イベントレポート:AIエージェントが実体を手に入れたら…?変化する消費者の日常とマーケティングへの影響

3年先の未来を示す、世界最大の家電・電子機器見本市「CES」

AIの活用如何で、マーケターとしての質に大きく差がつく時代。CARTA HOLDINGSにおいても、AI推進組織「CARTA Generative AI Lab」で日々、生成AIに関する研究と社内活用を推進しています。

そうしたAI時代の到来を色濃く反映して見せたのが、3年先の未来を示すとされている世界最大の家電・電子機器見本市「CES 2025」であり、今年はAIエージェントがテクノロジーをさらに加速させていく様子が示されました。

新商品やコンセプトを発表するマーケティングの場としても知られるCESを現地で視察したCCIが、今後のデジタルマーケティングへの影響と合わせてレポートしていきます。

目次

自律型AI(AIエージェント)がもたらすデジタルの変革

これまでのAIは、質問に答えるのがメイン。しかし、今回のCESで注目されたのは、AIが自ら考え、解決策を見つけ出す「自律型AI(AIエージェント)」です。

従来のAIとの違い:質問応答から自律解決型へ

従来のAIは、主に質問や指示に対する応答に重点が置かれていましたが、CES2025で注目されたのは、AIが自律的に問題を理解し、解決策を導き出す能力です。これは、AIが単なるツールとしてではなく、より高度なエージェントとして機能する可能性を示唆しています。

半導体メーカーであり、コンピュータグラフィックスやAI分野で技術革新をしてきたNVIDIA(エヌビディア)のCEOであるJensen Huangは、CESの基調講演を行いました。

                              

講演の中で、以下のように発言しています。
  • 生成AIが使われたことにより、問い合わせや会話型のデータが莫大に集約された。ここからは、そのデータをもとに解決まで導く自律型AI(エージェントAI)が次の主流になる来年までには技術革新がさらに進み、自律型AIがリアル社会にロボットとして登場するだろう。Nvidiaはリアル空間でコアとなるロボットのための半導体の提供や開発を強化していく。
  • カリフォルニアや中国の一部地域などにおいては、ロボットタクシーによる自動運転化がかなり進む見込みで、2028年までにはロボットタクシーが、日常で走っている世界が実現していると予測される。
  • 今後2050年までには、ソフトウェア(ネット)の世界だけではなく、物理的なアイテムすべてに自律型AIが搭載される社会になるだろう。 
    ”Youtube:NVIDIA CEO Jensen Huang Keynote at CES 2025”より                                       

状況を自ら理解し、率先して解決策を導き出すAIが、これまでのようにPCやスマホの向こう側ではなく、ロボットとしての実体をもって現実社会に登場してくるという数年後。SFで描かれてきたような世界は、各企業の展示を見るとさらに現実味を帯びてきます。

CESロボット展示

日常生活に入り込むAIからの提案

LG:”Zero Labor Home(家事からの解放)”AIを組み込んだ製品が”自ら”家事をする。


たとえばLGは、AIを組み込んだ製品が変える新たな日常生活を紹介。家庭内のエアコンや洗濯機、掃除ロボットが連携する”Zero Labor Home(家事からの解放)”を掲げます。「掃除をして」という指示が必要だった掃除ロボットは、自律型AIを搭載することで、汚れを見つけ、自ら率先して掃除をしてくれるようになるわけです。

さらにLGの自動車部門は、LG OSを搭載した車両AIを発表。利用者の生活パターンを認識することで朝のコーヒーの購入を提案したり、さらには生体認証システムとも連携して、ハンドルを握ったときに「いつもより心拍数が高めです。カフェインを取りすぎていませんか?」といったような問いかけをしてくれるなど、車としての“移動”以外でも、自律型ロボットとして利用者をサポートします。

 

SAMSUNG:AI for All(全ての人にAIを)

SAMSUNGもまた、家庭内の家電やスマートフォンがつながる「Home AI」の実現を目指します。

たとえば、庫内にある野菜の鮮度や在庫をセンサーで管理し、在庫が不足しているとEC購買を促してくれる冷蔵庫。朝のランニングデータを取得し、冷蔵庫のありもの素材からカロリー計算したレシピを表示してくれるなど、「Home AI」の実現する未来の一端が、冷蔵庫をトリガーに紹介されていました。

自律型AIとデバイスの進化から考える広告の変化

今、その瞬間のターゲットにアプローチするLGやSAMSUNGのような自律型AIとデバイスの進化は、たとえばWeb広告におけるターゲティング消費財の購買プロセスに大きな影響を与えるかもしれません。

データ活用の主役は「過去」から「リアルタイム」へ

現在のターゲティングは、ユーザーの過去の行動データを利用したものが主流です。そのため、「以前広告をクリックしたものの、今は購入する気がない」 という人に何度も広告が表示されるなど、購入意欲の低いタイミングで広告が表示されてしまうことも少なくありません。

ただ、LGやSAMSUNGのような自律型AI搭載の生活機器を通して、「今欲しい」という最もホットな瞬間に広告を届けることで、購買率を現在よりも高めることができそうです。企業の広告配信効率が向上するのはもちろんのこと、広告を受け取る側にとってもより快適な体験になるかもしれません。

「探す・比較検討」がない購買プロセスへ

また、現在の消費財の購買プロセスは

  1. 在庫切れに気づく
  2. 店舗やネットで商品を探す
  3. 商品を比較検討する
  4. 購入する

という流れが一般的で、企業は2や3のプロセスで自社を選んでもらうために、棚取りや広告施策を行うことが多いと考えられます。しかし、自律型AI搭載の生活機器により「AIが自動的に在庫切れを検知し、ユーザーの好みに合わせて商品を提案・注文する」といったことが実現できれば、2や3の探す・検討するといったプロセスを省略し、シームレスな購買体験を提供できます。

これにより、企業は競争の激しい比較検討の段階で自社商品を選んでもらうための施策を減らすことができ、ユーザーはより快適に商品を購入できるようになるかもしれません。

自律型AI技術は、広告配信と購買プロセスの両面から、より効率的で快適な消費体験に貢献する可能性を秘めています。

広告企画の可能性を広げる映像技術

 

SONYからは映像技術を使うことで背景の動画を展開する技術が紹介されています。上の動画では、砂漠の映像と車のモーションキャプチャーを組み合わせて、車が動く方向・ブレーキや加速に合わせて映像が変化しています。

現場での撮影なしにダイナミックな映像を合成できるこうした技術は、撮影期間、予算を縮小しても従来と変わらないリッチな映像制作を可能にします。ほかにも、イベントプロモーションにおける企画の幅も大きく広がりそうで、一定の条件下における広告表現・展開のポテンシャルを引き上げるものとなるかもしれません。

プロダクトからソフトウェア産業へ…ビジネスモデルの変化が生む新たなマーケットの可能性

市場のビジネスモデルの変化も注目ポイントです。自動車産業全体では、これまでの「売り切り型モデル」から「ソフトウェアビジネス/サブスク」への転換の動きが見られました。資材価格の高騰により、現価格での提供が難しくなったことに起因し、本体代金を下げるかわりに月額のソフトウェアで稼ぐSDV※など、収益モデルの多様化が起きています。

※SDV:ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)とは、車と外部との間の双方向通信機能を使って車を制御するソフトウェアを更新し、販売後も機能を増やしたり性能を高めたりできる自動車のこと

 ホンダ / SONY:自動運転とソフトウェアビジネス

CES 2025 AFEELA 1 圧縮

▲AFEELA 1

たとえば、ホンダ / SONYはプロトタイプではなく実販売車を展示しました。AFEELA 1は高速道路などでもハンドルを握る必要がないレベル3の自動運転技術を搭載しています。

車内ではゲームや映画、カラオケが楽しめるほか、対話型AIの技術が盛り込まれ、スマートフォンのように好きなアプリをアップデートできる仕様です。販売価格には3年分のソフトウェアアップデート料金が含まれています。

自動車産業のビジネスモデル変革によって生まれた「運転中の自家用車内」という新たな可処分時間・空間が持つ広告ポテンシャルについても、今後は考えていく必要があるかもしれません。自動車メーカーの戦略、搭載ソフトウェアの技術やハンドルを握らない運転者の傾向など、マーケターが注目しておくべきポイントは少なくなさそうです。

まとめ

CES 2025は、AIがデジタル広告の未来を大きく変える可能性を示しました。

今後は、自律型AIがさらに進化し、ロボット技術との融合によって、私たちの生活、仕事、そして社会全体が大きく変わっていくでしょう。

これら変化に対応したマーケターの戦略にもまたAIは欠かせないものとなります。市場の変革者、そして自身のパートナーという2つの視点でAIの動向に注目しながら、積極的に活用していく必要があるでしょう。

今後もCCIでは、最新のデジタル情報を発信していきます。

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