ユーザーの解像度を高めるために必要な調査とは… UXデザインにおける「リサーチ」活用 ~Media UX LAB アーカイブ~
※この記事はCCI メディア向け統合支援サイト「CCI MEDIA DOCK」2021.10.1のアーカイブ記事です。*現在クローズしています
モノ消費からコト消費へ。めまぐるしく環境が変わる昨今において、継続的にユーザー体験を向上させていくためには、ユーザーのファクトデータの取得、分析を組織として一貫して行う仕組み作りが必要です。
このコラムでは「リサーチ」をテーマに、UXデザインにおけるリサーチの重要性について、LABに所属するリサーチャーの株式会社TesTee/倉田博之様、髙山直人様と、UXエキスパートであるTHE GUILD/渡邉真洋様にお話を伺いました。
スマートフォンの普及によって起こった「リサーチ」市場の変化
CCI:
まずは、TesTee社の事業や特長を紹介していただけますか。
倉田:
TesTeeは設立8年目。リサーチ企業としては後発となりますが、若年層×スマートフォンを活用した調査を強みとし、業界内での差別化をはかっています。
これまでリサーチ市場は、30〜50代をメインターゲットとしたものが一般的で、10〜20代へのリサーチは比較的手薄な状況でした。これは、従来のリサーチ手法がPCメインに設計されていたため、スマートフォンをメインデバイスとする若年層のパネル獲得が難しかったためです。ただ、生活様式や環境の移り変わりが激しく、一年で思考やライフスタイルがガラリと変化する若年層の意識調査についての潜在的な需要は、昔から少なからずありました。
昨今の通信環境の向上と携帯端末の進化によるスマートフォンの社会的普及は著しく、UIの最適化も進んでいます。「業界のあり方」と「時代の流れ」の隙間を縫って、若年層をターゲットに設定したスマートフォンの調査方法に、ビジネスチャンスを見出したことが弊社の始まりです。
CCI:
これまでターゲットとされていなかった若年層、加えてスマートフォンを活用した調査というと、知見がない中での取り組みだったかと思いますが、調査にあたり気をつけていることを教えてください。
倉田:
回答のタイミング、UIの設計は意識しています。スマートフォンの場合、移動時間や休憩中など、隙間時間でアンケートに回答するシチュエーションが多いため、短時間で気軽に答えられるよう、利用者が使い慣れているチャット形式を採用しました。誰もが使っているメッセンジャーアプリのような感覚でアンケートに答えられる仕組みは、弊社”ならでは”の特長であり、他にはない強みだと考えています。
CCI:
具体的には、どんな調査依頼が多いのでしょうか。
高山:
若年層が活用しているデバイスやチャネルが多様化している状況で、どのような行動をしているのかを掴みづらく、調査を望む企業は多くいらっしゃいます。「若年層は難しい」との声をよくいただきますが、調査を通してその特長と傾向を把握することは、他の年代同様に可能で、若年層が特別であるとは考えていません。
リサーチのハードルが下がった今こそ、
メディアはユーザー理解とチーム共有の強化を
CCI:
では、特に対メディアにおけるリサーチについて、その業務内容や、メディアが抱えやすい課題について教えてください。
高山:
業務では、メディア内広告の効果測定や、コンテンツを届けるターゲットの分析が多いですね。近年では、若年層に対して絶対的な存在のメディアがなくなり、かわりに個々にパーソナライズされたメディアが増えてきていると感じます。個々が自分にあったサービスを吟味し、活用する傾向にあるなかで、ユーザーにコンテンツをどのように伝え、どう感じてもらいたいのか。ユーザーの声を聞き、データとともに検証しています。
CCI:
絶対的な価値観が存在しない時代においては、発信しているコンセプトやコンテンツがターゲットに正確に届いているのか、メディアは常に確認しておく必要があるということですね。では、「UXデザイン」の観点から、近年のリサーチの傾向はいかがでしょうか。
渡邊:
そうですね。例えば、ゲームを販売する場合、昔は一度販売してしまったらそれ以降、全く改善ができないというリスクが高い環境でしたから、必然的に開発前のリサーチも大掛かりなものになっていました。現在は市場に出した後でも、調査・検証を繰り返しながら、改善し続けていくことが可能です。リサーチは、プロジェクト開始時における一大タスクというよりは、通常の業務フローの一貫として、呼吸をするように”あたり前”の感覚で行うことが可能になってきました。
今では、自社でアンケートを取得する仕組みを持つメディアもありますし、Web上でコミュニケーションツールを活用する機会も増え、よりハードルが下がりました。ただここで重要なのは、リサーチを通したユーザーへの理解を、リサーチャーだけで完結するのではなく、プロダクトを作るチーム全体でしっかりと共有すること。インタビュー内容を咀嚼し、意見を出し合うことが大切です。このプロセスを欠くと、施策に反映されないインタビュー結果が、フォルダの奥底で眠ってしまう…ということが起きてしまいます。
CCI:
なるほど。ユーザーから生の声を聞くにあたり、リサーチの設計には専門的な経験が必要だと思います。リサーチをとるために気をつけなければならないことはなんでしょうか。
高山:
リサーチの設計自体はそれほど難しく考える必要はないと思います。ただ、普段の会話をイメージしていただきたいのですが、聞く順番、話す順番が変わるだけで、内容から受ける印象がガラッと変わってしまうことはよくあります。リサーチも同じで、リサーチャーはメディアが抱える課題を正確に抽出するため、ユーザーへの質問にバイアスをかけない客観的な視点とコトバ選びが重要になりますね。
渡邊:
一方で、設計段階から3〜4つくらいの仮説を準備しておくことも大切です。「何かヒントが出るかもしれない」といった漠然としたリサーチではなにも得られないことが多々あります。目的意識を持って、仮説をつくるには、普段から情報収集を行い、ユーザーの解像度を高くしておかなければなりません。ユーザーについての理解が、アンケート内容の精査にもつながります。
「定量」でポイントを絞り、「定性」でさらに深堀り
CCI:
リサーチにおける定量調査と定性調査の使い分けについて、UXデザインにおける特徴的なポイントはありますか?
渡邊:
そうですね。例えばフリマアプリの利用者に対して「買う」と「売る」、「両方」のユーザーがいたといます。この割合を調べて定量的に優先順位をつけたい場合など、定量調査が適切です。ログデータ分析でもこれは可能ですが、例えばこれを競合と比較したいと言う場合には、定量調査でしか見えてきません。逆に定性は、ここで絞ったターゲットユーザーに対して、深いインサイトを抽出したい場合に活用できます。
高山:
ユーザーの傾向値を見るならアンケートでの定量調査よりもログデータの方が使いやすいと思います。Webサイトやアプリの離脱ポイントはログデータから判明しますが、なぜ離脱したのか、ユーザーがネガティブイメージを受けてしまった原因はわからないので、そこでアンケートが役立ちます。PVや回遊率などの数字はログデータで分析しながら、要所の気持ちや要因をアンケート、さらにインタビューなど定性調査を活用しながら、ユーザーの声を集めることで、より解像度の高いデータになると考えています。
CCI:
ユーザーの解像度を高めるために、定量調査で課題を見つけつつ、定性調査で原因を探る…といったイメージでしょうか。アンケートとインタビューの使い分けもお話しいただけますか。
高山:
アンケートは、決まったストーリーに対して「はい」か「いいえ」で答えてもらうことしかできないので、基本的にターゲティングが定まっておらず、多くの人に聞きたい場合での活用がほとんどだと思います。一方で、深掘ることに関してはインタビューが圧倒的に適しています。プロダクトをつくる上では、「誰かを喜ばせるためには、まず一人を喜ばせられるものをつくる」ことが重要です。”誰か”を定義するために、幅広くアンケートをとり、インタビューで深掘りしていく方法がよいかと思います。逆に、インタビューでは量を担保できないので、まず、“誰か”を絞ることは必須ですね。
データ活用・UX改善の成功は、企業の意識と体制づくりがカギに
CCI:
データをうまく活用してUXの改善につながった事例もお聞かせいただけますか。
渡邊:
実は、データを活用したUX改善は、機能を拡張する足し算よりも、引き算である場合が多いです。運営側の”想い”が入っている機能やコンテンツは、主観ではどうしても削りにくいこともありますが、客観的なデータを提示することで削除の決断ができるなど、体験をソリッドにさせることもデータが得意なことなのかもしれませんね。
また、ユーザーの声を活用したUX改善の成否には、施策の優先順位やボリュームにもよりますが、企業の体制が大きく関係していると感じています。仮説と論点が明確にあっても実装する人材がいない場合や、その逆のパターンも少なくない。仮説を立てることと、実装できることをセットにして考えることが大切です。
高山:
加えて、データをうまく活用する企業は、リサーチする前から調査結果に対する優先順位を決め、目的意識を持っている場合が多いですね。達成したい目的に対する方法としてリサーチを選択している、そして体制が整っていれば、施策の正誤にかかわらず、ネクストアクションの判断がしっかりとできていると感じています。
CCI:
UXデザインとリサーチの関係性とその大切さ。何よりもユーザー体験を作るにはユーザーを理解しなければならない重要性を再認識できました。
本日はありがとうございました。
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